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街全体に夕方の5時を知らせる放送がながれる。
綺麗な空だった。
夕焼けが染めるオレンジ色の空に、羊雲が合わさってとても幻想的だ。
夕焼けが染めたのは空だけではない。
街も道路もそして私も、全てがオレンジ色に染まっていく。
傾き沈んでいく太陽は私たちの影を延ばしていく。
私のすべてを包み込んでしまいそうなくらい大きくなっていた。
『昔々、あるところにお爺さんとお婆さんがいました。お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。すると川の上流から、どんぶらこ~どんぶらこと大きな桃が流れてきました‥』
その昔話は大学の帰り際、近くの公園から聞こえてきた。
そしてその声を遮るように男の子の声も聞こえてきた。
『僕このお話知ってる。桃太郎でしょ!何回も聞いたからつまんないよ』
『そんなこと言わないでくださいよ。必死に僕が描いたんですから』
『だって、どうせ桃太郎が鬼をやっつけて終わりでしょ?』
『そうですけど‥』
そのやり取りに私は思わず微笑んでしまった。
そして、その声にいつの間にか引きつけられていた。
小さな公園、すべり台、ブランコ、砂場、ジャングルジム、シーソー、一通りの物は揃っていた。
そのなか一人の青年がブランコに座り、子供数人に囲まれて紙芝居をしていた。
どうやらさっき聞こえてきた声は彼らしい。
低すぎず高すぎず丁度良く、とても優しすぎるその声は一度聞いたら忘れられない。
そしていつの間にか私も子供たちと一緒に彼の読む紙芝居を見ていた。
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