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それから啓祐は彼らに状況の報告をした。
夏樹が死んでしまったこと、ボスは倒せたこと、そしてテレポートした先が天空であること。
啓祐はあれから一人、夏樹を弔おうと、彼女が消えた地点で手を合わせた。
そしてその時にフィールドの外に広がる景色を一望した。
広がる雲海の先には、ここと同様の遺跡のようなものが雲の上に浮いている。天空に文明があるのだ。
この光景は、イリミネーターでユリゼンを吹き飛ばした際に夏樹も見ていたはずだ。
啓祐は、隆二のメンタル状態を心配し、このまますぐに攻略を続けることに不安があった。しかしそれはイベントの都合が解決してくれた。
セントラル島の古代魔法を再度使用するのに、ヴィルプは一日休んで魔力を回復させなければならないらしい。
つまり、再挑戦は明日からということになる。
船に戻った啓祐たちは、味のしない温かい食事を口にする。
誰も何の話題も口にしない、ただただ気まずいだけの空間。もう早く寝ようと思った啓祐に、不意に依菜が声をかける。
「……啓祐。ナビ、電話鳴ってない?」
依菜に指摘されて初めて気づいた啓祐は、元々電話なんて出る気分じゃなかった。だがその相手を見ると、無意識の内に通話に出ていた。
「もしもし」
『あ、啓祐君!久しぶりー!』
ナビから聞こえてくるのは、元シャドーの優希の声。戦争に負けたものの、彼女が生きていることの安堵はあるが、やっぱり電話に出るんじゃなかったと思えて来た。
戦争に負けて勢力が崩壊し、少なからず仲間も失っているはずの優希だが、彼女の声からは、今の啓祐にとっては眩し過ぎるほどに明るく感じたのだ。
「久しぶり……」
『どうしたの?元気ないけど……』
「いや、大丈夫。メシ食っててさ。えっと、どうしたんだ?」
『うん。ちょっとお願いがあってね。啓祐君にしか頼めないと思って』
「お願い?」
「誰?」
と、隆二は電話中の啓祐に問いかけた。
「優希」
「優希って、シャドーの東優希か?」
「そう」
啓祐がそう答えると、隆二は声を上げた。
「あっそう。戦争に負けて焦ってるからって、手当たり次第に電話か。
天宮さんからの電話の時もなんか怪しかったんだよ。
シャドーの連中、何か企んでるぜ。
切れ切れ切れ、そんな電話。俺はさっき断ったからな?」
明らかに苛立ち、八つ当たりしているように見える隆二に対し、啓祐は言葉を返すことが出来なかった。
仕方がない状況とは言え、明らかに隆二は今精神失調状態だ。
『ご、ごめん。別にそんなつもりじゃあ……』
そんな優希の言葉を聞いた啓祐はここでやっと気づく。
いくらなんでも、状況も知らない優希に八つ当たりなんて理不尽すぎると。
「おい、隆二。やめろよ。言っていいことと悪いことがあるだろ」
「だったらこれは言っていいことだ。
こいつらはな、戦争の負債を関係ねープレイヤーに押しつけようとしてる。
攻略の手伝いとか甘い言葉に惑わされんな。具体的にどんな攻略なんだよ。
こいつらはな、事故物件なんだぜ?」
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