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「もう止めてッ!聞きたくない!」
依菜は、互いを否定し合う二人の言い争いをこれ以上聞いていられなくなった。啓祐と隆二は互いを牽制したまま、口を閉じる。
「こんなの……夏樹ちゃんは絶対に望んでないよ……」
依菜は目に涙を溜め、そうとだけ言い残し部屋から出ていった。
依菜の涙を見た啓祐も、無意識の内に目に涙を溜めていた。抑えきれないそれを誤魔化そうと、散らばった料理と割れた皿を片付ける。
そして自然と隆二がそれを手伝う。
しばらく無言のまま片づけをしていると、不意に隆二が一言だけ言う。
「……悪い」
散々言葉を選び、ようやく絞り出せたのがその言葉だった。
それを聞いた啓祐は、不思議とさっきまでの怒りが一気に鎮火した。むしろその一言で救われた気さえした。
「いや、いいんだ……」
「ごめんな。
言い訳をする気はないし、気持ちを理解してくれなんて言わない。
でも俺にとって夏樹はな、友達っていうか、それ以上の……」
啓祐は隆二の言葉に頷く。
不思議と二人共、絶対に顔を見せようとはしなかった。憎いからではない。
こんなぐしゃぐしゃに歪んだ顔なんて、男友達には絶対に見せたくないというくだらないプライドからだった。
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