エルセルム

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啓祐は電話を切ると、早速全員に確認する。 「簡単に言えば、イベントに協力してくれって話だった。なんか、ギターを弾いてくれみたいな」 それには隆二が反応した。 「なんだそれ」 「こんな相談に裏があるとは思えない」 「まぁ、確かにそうだな。誘い文句がギターを弾いてくれなんて詐欺が存在するわけねーな」 「俺はさ、どうしても行きたいと思ってる」 と、啓祐が真剣な眼差しを向けると、ジョンは依菜に訊ねる。 「なんだ?その女、そんなに可愛いのか?」 「うん。可愛いよ。なんていうか、啓祐が好きそうな感じ」 茶化そうとするジョンと依菜に、啓祐は言う。 「そんなんじゃねーよ。 俺のずっと欲しかったアイテムを、優希たちが持ってるんだ!」 ゲーム開始から一度も弾いていない趣味のギター。 ゲームの攻略には直接関係ないが、今回はその実物に触れることができるかもしれないチャンスなのだ。 隆二は確認する。 「それはさ、協力することによって俺らには何か得はあるのか? 言っても、あいつらはもう崖っぷちだ。お礼をするとか言ってたけど、何か見返りが期待できるとは思えない」 それに啓祐が答えを迷うと、またもやジョンが茶々を入れる。 「その女、ヤらせてくれんじゃねーのか?」 「お前黙ってろって!」 隆二は、特に見返りも期待できないのに協力するのはどうかと思っている。 だが、啓祐にはある考えがあった。 「優希はさ、大したイベントじゃないみたいに言ってた。でもそれは嘘だってわかる。 だって、俺には一つ心当りがあるから」 啓祐にはギターを使う重要なイベントに、一つだけ心当りがあった。 それを啓祐は解説する。 「シャナルの暗号だ。俺はあれを、ギターの楽譜が有力なんじゃないかと考えたことがある」 「えっ。楽譜?そんなこと言ってた?」 「いや、今初めて話す。 ずっとみんなに言わなかったのは、楽譜にしては不確かで、楽譜としても成立していなかったからなんだ」 啓祐は更に詳しく説明する。 ギターの楽譜というのは、通常のピアノの五線譜とは違う作りになっており、一般に"TAB譜"という。 五線譜はある意味ミュージシャンの共通言語で、楽器経験者ならばそれを見ればすぐに演奏ができる。 しかしTAB譜はギタリストにしか読めない、いわばギター専用の言語。 TAB譜にはギターの弦を表す6本の線が引かれ、その線上に数字が書かれ、更にリズム記号が表される。そしてギターの奏法を表す、ベンド、スライドなどが英語で記されているのが特徴だ。 啓祐があの暗号をTAB譜と疑ったのは、無数の横線を6つのまとまりで区切ると余りがなくピッタリ区切れることと、その上に0から22までの数字が記入されていること。 例外はいくつかあるが、だいたいのギターが22フレットまでということを考えても、TAB譜として機能している。 しかし問題は、あの暗号にはリズム記号や奏法を表す記号が書いていなかったこと。リズム記号が無ければ演奏することは困難だ。
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