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これでこの広大なエルセルムを調べ尽くすことができる。一体このエルセルムにはどんなアイテムがあるのか、そんな高揚感を覚えていく啓祐へ、魁斗は言う。
「お前、本当にコイツらを連れて来てもよかったのか?」
「え? どういう意味だ?」
「……いや。別に」
と、魁斗は自分から話しかけておきながらそう言ってそっぽを向いた。
啓祐と依菜には、魁斗の言っていることの意味がわからなかったが、隆二だけはその真意を汲み取っていた。
地上世界とは明らかに違う天空都市エルセルム。恐らくここにしか存在しない武器や魔法などはたくさんあるだろう。本来はそれらを自分たちだけで独占できる状態だった。
高橋たちは恐らくここまで到達できていないということを考えると、エルセルムに到達した時点でかなりのアドバンテージと考えられる。
シャドーとの取引でこれを提供するのは、割に合わないのではないか。
しかし隆二もあえて何も言わないでおこうと思った。
ここでミカエルは言う。
「街まで送って差し上げますので、ドラゴンの手配ができるまでお待ちください」
――それから彼らはこの空間で30分近くは待機させられた。
魁斗、ジョン、城島たちが吸ったタバコの吸い殻も溜まって来たところで、突然一人の兵士がこの空間へと走ってやって来た。
黒い鎧を纏った、若い男。彼は啓祐たちを睨みつけるように一瞥した。その暗く冷たい目つきが啓祐には印象的だった。
ジュリアは言う。
「フォティス。どうかしたのか?」
「アーソナに向かったヴァシリスのドラゴンが単独で帰ってきました。ヴァシリスがドラゴンに残した遺言を伝えます。
"ゼノンはアーソナを……"」
「い、今なんと言った? 遺言と言ったのか……?」
フォティスの冷めたような無表情とは対照的に、ジュリアは大きく取り乱す。
啓祐たちもさっきまで一緒にいたヴァシリスが死んだような言い方をされているのに驚いたが、とりあえずは会話を見守ることにした。
「はい。ヴァシリスは死亡したものと断定しました」
つい先ほど、啓祐たちをここへ送り届けてくれた男の訃報。それには啓祐たちは戸惑ったが、魁斗や隆二といった一部の者たちは最初に「イベントが進行している」と考えた。
フォティスは続ける。
「ヴァシリスが死に際にドラゴンに伝えた言葉は、遺言というよりは伝言です。
"ゼノンはアーソナを突破し、光の神石を持ち去った。奴は次に宝剣を取りに行くだろう。"とのことです。
先ほど別の石盤から確認しましたが、アーソナの石盤は破壊されていた模様」
「……ゼノンめ。こんな大罪を犯して、一体何が奴をここまで動かすというのだ……」
「一刻も早く捕らえねば、エルセルムの……いや、世界の秩序が乱れかねない」
「と、とにかく、お前は直ちにアーソナへ向かってくれ」
「お言葉ですが、アーソナに向かう必要はもうありません。
ガーディアンもやられ、光の神石も奪われ、ゼノンはとっくに移動しています。ヴァシリスの遺体を回収するなら別の者がよろしいかと。
向かうのなら、恐らくは宝剣の二か所の内のどちらか」
「で、ではその判断はお前に任せる!」
「承知いたしました。では……」
ジュリアの未熟な判断をフォティスが訂正させたが、ここでミカエルは言う。
「待ってください。あなたはここで待機してください。ゼノンは必ずここへやってきます。このユグドラシルの祝福を受けに」
「しかし……」
「彼を甘く見てはいけません。ここは総力戦です」
「……承知しました」
「あの、何が起きてるんですか?」
さすがに話しの流れが掴めない啓祐は思わず訊く。
ジュリアは振り返る。
「地上の者には……」
「天空の秘宝です。困ったことに、それを狙うエルセルムの民がいるのですよ。ハッキリ言って、ここまでの事態になったのは長いエルセルムの歴史の中でも初めてのことです」
ミカエルは簡潔にそう言うが、啓祐たちは納得いかなかった。
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