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「ねぇ帰ったら?佐々木さん」
チーフと呼ばれる「葉山」と言う五十代の女が薄ら笑いを浮かべながら言葉を続ける。
「だって佐々木さん、何だか上の空で仕事に集中出来ないみたいなんですもの~!
ひょっとして彼氏の電話でも待ってんじゃないの~?」
途端、くすくすと周りの者たちが顔を見合わせ堪らないとでも言う風に肩をすぼめ笑い出した。
恥ずかしさと腹立たしさでカーッと頭に血が上り、額から脂汗が吹き出してくる。
「す、すみません!
本当、申し訳ありませんでした!!」
ペコペコと頭を下げる私の頭上に、無遠慮な高笑いを浴びせる同僚の女たち。
その輪の中には高校を中退して先日入って来たばかりの若い女も居れば、私よりずっと動きの鈍い60代のおばさんだって居るのだ。
何て惨めだろう。
悔しい、悔しい……
ギリギリと歯を食いしばり、爪が手の平に食い込む程にギュッと拳を握った。
そうして踏ん張って居なければ涙が零れ落ちてしまいそうだった。
せめてこんな輩達の前で泣き崩れるような真似だけは絶対にしたくはない。
下を向いたまま唇を噛んで時が過ぎるのをひたすらに待った。
この痛みに耐えていれば今をやり過ごす事ができる。唇に血が滲む程の痛みは頭の中を真っ白にしてくれた。
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