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「開けてくれって言ったのに……俺、言ったのによぉ~~」
男はその場に崩れるように座り込み、子供のように泣き伏した。
「開けてくれって、何度も何度も言ったのにぃ」
小さく丸まった背中が震えている。
片手で私の手首をしっかりと掴んだまま、もう片方の手の甲で必死に涙を拭う。
「なんで?
なんであんたが泣いてるの?」
この男も寂しかったのかも知れない。
病んでいたのかも知れない。
周りの者全てに苛立ち憤りながら悶々とした想いだけを抱え、ただただ毎日をやり過ごすだけの心壊れた人間だったのかも知れない。
男の痩せこけた指に掴まれた自分の手首をそっと見遣る。
久方ぶりに感じるこの人肌の感触。
こんな男の体温でさえ確かに伝わるこの温かさ。
何故にこの手はこんなにも優しいのか…
こんなに、か細いのか……
こんな貧弱な手で人を殺める事など出来る訳がない。
出来る訳がないのだ……
「なんで泣くのぉ~
あんた泣いたらダメだ、若いのにそんなに泣いたらダメだ、ねっ?ダメなんだって!」
若くとも老いていても、誰でも声上げて泣きたい時はあるだろう。
しかし、私より遥かに年若い男が、こんな女の腕を掴んで、こんなに小さくなって泣いてはいけない。そんなの、余りにも悲しすぎるではないか。
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