生きる灯

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これまで鏡に映る自分の顔を見るのが堪らなく嫌だった。 澱んだ心ごと映し出されるようで怖かったから。 こうして口紅を引くのは何ヶ月振りの事だろう。 クッキリと引いた紅い口紅はそこだけが不自然に浮き上がり、何だか酷く滑稽に見えた。 眉を整え丹念に下地を作り、ふんだんに時間をかけて化粧を施す。 色を重ねる毎に、浮き立ち弾む私の心…… ブラシで髪を梳きながら、目の前のティッシュを抜き取り携帯電話を拭いた。 「はぁ~!はぁ~!」 その中に大切な宝物がビッシリと詰まっているかのように、吐く息で携帯画面を曇らせつつ懸命に磨く。
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