2249人が本棚に入れています
本棚に追加
これまで鏡に映る自分の顔を見るのが堪らなく嫌だった。
澱んだ心ごと映し出されるようで怖かったから。
こうして口紅を引くのは何ヶ月振りの事だろう。
クッキリと引いた紅い口紅はそこだけが不自然に浮き上がり、何だか酷く滑稽に見えた。
眉を整え丹念に下地を作り、ふんだんに時間をかけて化粧を施す。
色を重ねる毎に、浮き立ち弾む私の心……
ブラシで髪を梳きながら、目の前のティッシュを抜き取り携帯電話を拭いた。
「はぁ~!はぁ~!」
その中に大切な宝物がビッシリと詰まっているかのように、吐く息で携帯画面を曇らせつつ懸命に磨く。
最初のコメントを投稿しよう!