生きる灯

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人は、些細な喜びにでも生きる活路を見いだせるものだ。 天を仰いで歩く事は何て気持ちの良い事だろう。 思わず肩を竦める程の身を切るような冷たい風。 制服を着て、華やかな笑い声を立てはしゃぐ女子高生達。 すっかりと葉が落ちて寒そうに佇む裸の木々…… それらは、きっといつもと変わらぬ朝の光景。 「11月かぁ…もう冬なんだなぁ」 季節が移り行く事さえ気付かずに居た自分が、何だか可笑しくて笑えてくる。 「くくっ…本当可笑しい、こんな事に今更気付くなんて」 仕事を終えたら久々にデパートでも覗いて、自分の為に新しいコートを奮発しよう。 どんな色を選ぼうか、 どんな形のコートにしようか…… 「あっ、大変!遅刻しちゃう!」 履き慣れないヒールの踵を翻し力一杯に駆け出した。 私はこの時、人生で最良の幸せを実感していたと言っても過言では無かったろう。
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