愛実(アイミ)と言う名の本当の私

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それでも最後の最後に傍らに戻って来てくれたなら、私はそれで幸せだったのに。 もう誰も居ない。 私の周りには誰も居ない。独りぼっちだ。 友人? 卑屈でぎこちない笑みを浮かべ媚びてみても、こんな私に誰が寄って来ようか。 一日中下を向いたまま作業台に向かい、誰と口きくことも無くただ黙々と野菜を刻むだけの毎日。 変わり者だと陰口を叩かれる事も一人で囲む食卓にも、もうとっくに慣れてしまった。 だけど、時に無性に誰かと話がしたくなる事がある。 こんな私だって自分の話を聞いて欲しくて仕方が無い衝動に駆られる時があるのだ。 滅多に鳴る事の無い携帯を取り出し、その画面をそーっと開いて眺めてみる。今日も着信履歴も受信メールも全く無い。 それでも、幾つものストラップやらキャラクターのヌイグルミやらをビッシリとぶら下げた時代遅れのピンクの携帯は、眺めるだけで満ち足りた気持ちになれる唯一の宝物だ。
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