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目の前が真っ白になった。
電池が切れたように思考が途切れ、その場に立ちすくむ。動きたくても動かない。
肺に溜まった空気が喉に詰まる。
両手から汗が嫌という程滲み出ている。
瞳は乾きを訴えるもののそれは閉じる事はなかった。
目の前の光景は、まだ中学生の俺には酷な光景だったに違いなかった。
こんな事がこんなにも早く自分の身に降り懸かるとは思いもしなかった。
「……嘘だろ……」
脳みそが瞳の乾きに痺れを切らしたのか無意識に涙が溢れ出す。
拭おうとは考えなかった。
否――腕が動かなかった。
小指の一本さえ動かす事は困難だった。金縛りという現象に経験した事は無い。だが、今の状況はそれに近い。
テレビのおかげで少しは他人の死には慣れているはずだった。
しかし、この衝撃は計り知れない。胸にぽっかりと埋められない穴が空く。
「泣くなよ」
姉は強かった。とても。
言葉とは裏腹に、姉の大きな瞳から一筋の涙は流れているものの、それを悟らせないような強い意思を感じた。
俺は動揺しながらもなんとかちぐはぐとした声を絞り出せた。
「無理……言う……な」
白い布を顔に覆い、台に横たわる、二人の遺体。
両親が死んだ。
その現実を受け入れられる程、
俺の心は出来ちゃいなかった。
その日は雨だった。
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