逃亡者

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今はまだ動く時じゃないと判断し、夜までの時間を潰すために路地のさらに奥へと足を進める。 現状は非常に困難だと言わざるをえない。 町人やギルドの人間に捕まればすぐに命を取られる事は無いだろうがそのままグリュートの前まで連れて行かれればどうなる事か。 ましてや殺気だっている兵士に捕まるなんてのは論外だ。 まさにお先真っ暗。 自分の将来を想像して身を震わせた時だった。 『こんな所においででしたか。 レイジ殿。』 レイジが向かおうとしていた路地の奥の暗闇から女性のものと思われる声がする。 レイジ (うわ~、よりによって面倒なヤツが…) レイジの嘆きにより一層研きがかかるがすぐに逃げ出すような真似は決してしない。 そんな事をすればさらに面倒な事態になる事をレイジは知っていた。 そう、レイジは声の正体を知っている。 『前にお会いしてから三十八日と四時間ぶりです。』 やがて暗闇の中から日の当たる所まで進み出て姿を表す。 まずは膝よりやや長い黒いスカートと黒い靴。 次にこれまた黒い布に覆われた胸元と黒い布地に対するアクセントだろうか、腰には白い布が帯状に巻かれ後ろでリボン結びでまとめてある。 そして最後に顔。 見た目としては綺麗な部類に入るのだろうがいかんせん全体を黒で纏めた服装や本人の落ち着いた雰囲気のせいで綺麗よりも地味という印象が先に来てしまう。 髪は黒で、髪型も後ろで三つ編み一本で束ねているのも「地味」に一役かっているのかもしれない。 ルナの様な華やかさはそこになく、かと言って陰気なわけでもない。 凛とした静けさがそこにはあった。 かけられた眼鏡の奥の二つの瞳は閉じられていて、ちゃんと前見えてるの?とかレイジは思うのだが暗闇の中からレイジに向かって真直ぐ歩いてくるあたりどうやら本人にはちゃんと見えているらしい。 陽の光の元に姿が現れる。 そこには一人のメイドさんがいた。
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