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睨み合うでもなくじっとお互いが相手を見る。
メイドさんはレイジの言葉を受けても立ち去らず、未だレイジの真意を探るように閉じられて瞳を向ける。
『ここで…』
レイジ
『んっ?』
拒否の意志を示した以上素直に帰るものだと思っていたレイジはメイドさんが喋りだすのを意外そうに、しかし黙って聞く。
『ここで貴方を力づくで連れ帰る事は可能です。』
そう言って両の拳を軽くぶつけるとガチャンと金属音が鳴る。
見てみればメイドさんの両の拳は服装の色調に合わせたのか黒い金属製のナックルで覆われている。
全体の地味な雰囲気のせいで今まで気付かなかった武器の存在にレイジは身構える。
レイジ
(人間相手に"牙"は使いたくねぇな。
ならここは…)
腰のベルトに納められた六本のナイフのうちの一本に手をかける。
先日、宿屋に置いていた荷物のうちの一つ。
魔人と戦闘した時はまさか戦う事になるとは思わず宿屋に置きっ放しにしていた武器である。
魔人戦の時に使用した竜の牙とは違うナイフ、特別な装飾は施されていないが違和感を一つ上げるなら竜の牙以外の五本のナイフはそれぞれの刀身が普通の色と違っていた。
その五本の内の刀身が赤みがかったナイフの柄を掴む。
『ですが…』
自分に突き出して来ると思っていた両拳を胸の前からスッと下げ戦闘体勢を解くメイドさんにレイジは思わずこけそうになる。
『レイジ様の意志を無視して連れて行ってもそれは意味が無い事です。』
メイドさんが無理矢理連れて行く意志が無い事を内心助かった!とか思いながら喜ぼうとしたところ、メイドさんの『ですので』の言葉に何となくではあるが一抹の不安が過ぎる。
『レイジ様がその気になるまで不肖ながらわたくし、リリ・アインツがレイジ様の旅に御同行させて頂きます。』
『お願いします』とか『連れて行って下さい』とかの頼む言葉ではない。
ハッキリと『付いて行く』と目の前のメイドさんは断定しているのだ。
これには流石にレイジもうろたえた。
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