ゆきのせい

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 これは冬の季節に、ある雪国で起きた物語。      1  私は一軒家の小さな庭の片隅で、しんしんと降る雪を眺めて居りました。  辺りは夜も深い事もあり、静寂に包まれて居ります。今日は、凍えるような寒さな訳で、いつも五月蠅い近所の馬鹿犬も犬小屋で丸まりながら震えて居るのでしょう。いい気味ですな。  私にとって寒さは大好物ですので、気持ち良く静かな夜を満喫して居りました。 (闇夜に浮かぶ白き雪……風流ですな)  などと心の中で呟いていたので御座います。  そんな中、ふわふわと舞う綿雪が地面の降雪と触れ合う瞬間に、シンッシンッと小さな音を立ててるのに気付いたのです。  耳を澄ますと、至る所からシンシン、シンシンと聞こえてくるではありませんか。その音は、ほんの微かな音ですが、私の心に大きく響いて来るのです。なぜか、とても懐しい感じがしたのですな。  何故にそんな感じがするのか考える私。すると、思い出したので御座います。私も一週間程前にこの音を立てていた、張本人だったと言う事に――。  思い起こせば私は元々、雪の結晶で御座いました。華奢で綺麗な六角形の身体で生まれた訳ですな。いわゆる雪の精霊とでも申しましょうか。  私は遥か上空で周りの結晶達と手を繋ぎ、柔らかな綿雪へと姿を変えました。雪の精霊としての進化と言えるでしょうな。  綿雪と成った私は、ふわりふわりと空中を漂い、風に身を任せながら、この十坪程の小さな庭に舞い降りたので御座います。自分で言うのも照れますが、まるで天女のようですな。  私としては、ひとけの無い山奥なんかに降り立ちたかったので御座いますが、住めば都とも言いますし、この場所で根雪として春まで暮らす事を決意した訳で御座います。もちろん、そんな決意など無くともここに居る事しか私には出来ないので御座いますが。  
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