ゆきのせい

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 そんな私の前に一人の小さな娘が現れたので御座います。  この家の御子なのでしょうな。歳の頃は、そうですな、五、六歳といった所でしょうか。桃色の防寒着を上下に着て居りまして、長靴と手袋も桃色と、全身をピンクでデコレートされた娘で御座います。防寒着のフードを頭に深く被って居りまして、そこから白く可愛い御顔を覗かせます。しかし、寒いのでしょうな。ほっぺと鼻の頭が紅を差したように赤く染まって居りました。  その娘、私の前に立ちますと、私を両手で掬い上げまして、更に両手で捏ねり始めるのです。きっと雪玉でも作ろうとしているのでしょうな。  私は娘の両手の中で他の雪達と身を寄せ合い、キュッキュと乾いた音を鳴します。  少女のやりたい事は解るのですが、いかんせん私はまだ、さらさらの新雪で御座います。そう簡単に他の雪達と一つには成りません。  しかし、この娘も流石に雪国の子供ですな。賢いですな。私に暖かい息を吹き掛けるのです。少女の息は白き魔法のようで御座いますな。  娘の白い息を受けた私は、他の雪達と手を取りまして、一つの雪玉へと、姿を変えていくので御座いました。  私にとってみれば、只の雪から雪玉へと進化したのですから、喜ばしい事なので御座います。しかし、その後の事を考えますと、気持ちは深く沈んでいくので御座いました。  何故ならば、子供の作る雪玉の行方は決まって居ります。そう、私はきっと何処かに投げられ、何かにぶつかり、また元の細かき雪へと……。  そんな私の思いとは裏腹に、娘は雪玉の私を地面にそっと置くので御座います。  子供の行動はよく分かりませんな。全く不可思議な生き物で御座いますな。  すると今度はこの娘、地面に置いた私を転がし始めるのです。小さな庭の中をぐるぐると、そして、ころころと私を転がすので御座いました。  
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