ゆきのせい

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 その日から私の雪ダルマとしての人生が始まったので御座います。  雪ダルマに生まれ変わった事は私にとって飛び跳ねる程の喜びなので御座いますが、何より嬉しかったのは娘が名を授けてくれた事で御座いました。  娘は私を「ユキコ」と呼ぶので御座います。雪の精霊に相応しい名で御座いますな。  私は「雪子」もしくは「幸子」なんだろうから、女性なんだわ、お淑やかにしなくちゃ、と思って居りましたらば。それから三日後の事で御座いましょうか、娘は私を相手に御飯事(おままごと)遊びを始めまして、その時私はお父さん役だったのですな。娘は私にちょび髭を付けたので御座いました。  御飯事が終われば取ってくれるのだろうと思ったのですが、髭はそのまま残されてしましまったので御座います。  女らしく、しおらしく、を合言葉に生きて行こうと思って居りましたので、とても哀しい気持ちで御座いました。  それ以来、私は自分自身が男か女か考える事を辞めて、雪ダルマのユキコ、として強く生きて行く決心をしたので御座いました。  ――ああ、そういえば、そんな過去もありましたな。  雪の降積もるシンシンという微かな音は、私をそんな懐かしい回想へと誘うので御座いました。  私の隣には立派な松の木が降積もる雪と昨夜の霧氷によって、見事な樹氷と成って居ります。  そんな真っ白な樹氷の隣に佇みながらしんしんと降る雪を眺めていると、夜の帳がゆっくり開けて、少しずつ白みがかる空はそれはもう綺麗で御座いました。  
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