機械仕掛けのアイデンティティ

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――アイデンティティの確立。 ソレはわたし達にとって必要不可欠だと、誰かが言った。 誰だろう。多分、わたし達を造った誰かだ。 「アイデンティティ……存在意義……」 ソレを求めるように、呟いた。 同時に、確かにソレは必要だな、と思う。 機会仕掛けの身体のわたし達は、何にでも成れるから。 ナニカの形を求められたなら、その形に身体を造り直せば良い。 ナニカの人格を求められたなら、その人格を定義すれば良い。 機会仕掛けのわたし達は、どんなモノにでも成ることが出来る。 でもソレは、アイデンティティあってこそだ。 どんなモノに成れようと、何に成れば良いのか分からない以上、何にでも成れるわたしは、しかし何でもないナニカでしかない。 「わたしは……」 わたしは、何だろう。わたしのアイデンティティは、何だろう。 機械はそもそも、造られるだけの理由があるはず。じゃあ、わたしのアイデンティティは…… 「…………あ」 ふと、記憶が鮮明になる。 そうだ。わたしは確か、わたしのアイデンティティを確立させた人達に、棄てられたのではなかったか。 その相手が誰だったのか、わたしに何の役割があったのかは覚えてないけど――今の外見年齢が10歳前後だから、多分養子として買われたのだと思うけど――彼らに棄てられたから、わたしはこんなに、冷たい雨の中で立ち尽くしてるんじゃないか。 「……困った」 アイデンティティの確立が必要だけど、ソレはわたしが定義できる事じゃない。 だからわたしは、こうやって雨の中立ち尽くして……ずっとずっと、動かないで―― 「――キミ、そんな所に立ってたら風邪引くんじゃない?」 ――不意に掛けられたその声は、とても温かいものだったような気がする。
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