6人が本棚に入れています
本棚に追加
「……アイデンティティを、定義して下さい……」
機械としての本能が――自己保守のプログラムを本能と呼んで良いのかは定かではないが――わたしに、口を開かせていた。
「――え?……ああ。そういう、事なんだ」
そう呟く少年の顔は、ひどく悲しそうで……どうやら、わたしの事情を理解したみたいだった。
でも、その瞳には悲しみだけじゃなくて……深い深い、共感が含まれている気がした。
わたしはもう一度……今度は意識して、口を開く。
「わたしに、アイデンティティを下さい……」
その言葉に、彼が見せた表情は……17歳くらいに見えるその外見に似合わない程辛く、重く、暗い……暗鬱な、悲しみ。
わたしの言葉に気を悪くしたのかと思ったが……違う。
彼の瞳は、わたしには向いていなくて……まるで、別のナニカを見ているみたいだった。
そうして、しばらく沈黙した彼は……不意に小さく、笑みを見せた。
「アイデンティティ……か」
少し考えたようにしてから、彼は言った。
「じゃあ……今日からキミは、僕の家族だ」
断定型に安心するのは、やっぱりわたしが機械だからか。
――でも。
「定義が……大きすぎます」
家族と言っても色々ある。わたしは彼にとって、どんな立場に成れば良いのだろうか。
「え?……う~ん、そうだなぁ……普通に考えれば妹だけど、僕がお兄ちゃんとして振る舞える自信がないし」
ウンウン唸る彼に、何故だかわたしは、また胸があったかくなるのを感じる。
「――あ、そうだ!ごめん、やっぱりさっきのは無し」
わたしに与えかけていたアイデンティティを再び奪った彼は、わたしに近づいてくる。
――互いの距離が縮まって、その距離は……
「あ……」
彼に優しく抱きしめられる事で、限りなく零になっていた。
最初のコメントを投稿しよう!