機械仕掛けのアイデンティティ

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「……アイデンティティを、定義して下さい……」 機械としての本能が――自己保守のプログラムを本能と呼んで良いのかは定かではないが――わたしに、口を開かせていた。 「――え?……ああ。そういう、事なんだ」 そう呟く少年の顔は、ひどく悲しそうで……どうやら、わたしの事情を理解したみたいだった。 でも、その瞳には悲しみだけじゃなくて……深い深い、共感が含まれている気がした。 わたしはもう一度……今度は意識して、口を開く。 「わたしに、アイデンティティを下さい……」 その言葉に、彼が見せた表情は……17歳くらいに見えるその外見に似合わない程辛く、重く、暗い……暗鬱な、悲しみ。 わたしの言葉に気を悪くしたのかと思ったが……違う。 彼の瞳は、わたしには向いていなくて……まるで、別のナニカを見ているみたいだった。 そうして、しばらく沈黙した彼は……不意に小さく、笑みを見せた。 「アイデンティティ……か」 少し考えたようにしてから、彼は言った。 「じゃあ……今日からキミは、僕の家族だ」 断定型に安心するのは、やっぱりわたしが機械だからか。 ――でも。 「定義が……大きすぎます」 家族と言っても色々ある。わたしは彼にとって、どんな立場に成れば良いのだろうか。 「え?……う~ん、そうだなぁ……普通に考えれば妹だけど、僕がお兄ちゃんとして振る舞える自信がないし」 ウンウン唸る彼に、何故だかわたしは、また胸があったかくなるのを感じる。 「――あ、そうだ!ごめん、やっぱりさっきのは無し」 わたしに与えかけていたアイデンティティを再び奪った彼は、わたしに近づいてくる。 ――互いの距離が縮まって、その距離は…… 「あ……」 彼に優しく抱きしめられる事で、限りなく零になっていた。
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