四章

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「ようやく徐州か、劉備殿は健勝にされているであろうか?」 不穏な噂も聞いた。劉備は曹操に敗れ敗走したとか果てには討ち死にしたという噂まで流れていた。 いかんせん、劉備が徐州にいるという巷の話を聞き、それだけをあてにしての一人旅である。 詳しい情報までは入ってくることもなく、ひたすら南へ南へと進んだ。 途中、寒空の中、野宿も当然であったし、盗賊や山賊に襲われることもあった。 それらを返り討ちにし、食糧や衣服、金銭を得、劉備に仕えることだけを夢見て、どんな苦境にも耐えて長旅をしてきた。 旧主の滅亡から、もうすぐ一年が経つ。袁紹の敗残兵狩りからも逃れ、身を隠しながらようやく徐州に到着した。 その男は長旅からか服装や格好はみすぼらしいが、顔立ちや体格は程良く引き締まり、綺麗な格好をしていれば、女性がほっとかないであろう美男。 手に持つ槍は、服装とは異なり手入れが行き届いており、日の光に当たって輝いている。 「もうすぐ、水も飼葉もたくさんやるからな。あと少し辛抱してくれよ」 男は馬のたてがみをなでてやった。 この男の名は趙雲。字は子龍。のちの劉備配下の五虎将の一人である。
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