31138人が本棚に入れています
本棚に追加
司馬孚はなるべく多くの兵たちを一所に集め、攻め寄せる上杉軍に抗する。
闇夜にも目が慣れ、幾度かの攻撃を退けるも多勢に無勢。やはり徐々に押されてくる。
「もはやこれまでか」
司馬孚も覚悟を決めた。討たれるにしろ逃げるにしろ次が最期になるだろう。
その気概で司馬孚は上杉軍の攻撃を待ち構えた。
だが焦らされてでもいるのか上杉軍は仕掛けてこない。しかし叫び声や喚声は至る所から聞こえる。
「なんだ?何が起きている?」
郝昭が戻って来て上杉の後方を突いているのか、はたまた丁儀らの部隊がようやくやってきて上杉の横合いを突いているのか。
などと、都合の良い想像ばかりが頭に浮かぶ。
やがて上杉軍は静まり返った。あれ程向けられていた殺気も感じない。それどころか上杉軍が存在していないのではないか、というくらい気配がない。
「おかしいな。様子を見て参れ」
司馬孚が部下に命じる。だがその時、暗闇からやってくる数多の足音に司馬孚が気づいた。
「構えよ」
司馬孚軍が足音のする方へ向かって構える。敵意は感じる。だが、軍は一時立ち止まり、何者かが一騎、こちらへ向かってやってくる。
「そこの軍。所属はどこか」
聞き覚えのある声に司馬孚の気が緩んだ。
「我らは曹丞相麾下の司馬孚とその軍でございます。まさか閣下が来てくださるとは」
司馬孚が進んでひざまずく。
「司馬孚殿であったか。無事で何よりだ」
「はっ。しかし曹彰様こそなぜこちらに?」
「昨夜遅くに丁儀めのところの孔桂という者が密告にやってきてな。司馬懿殿の指示に背いてでもこちらに来ねばならぬと急いでやってきたのだ」
最初のコメントを投稿しよう!