第二部 七章

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「この三方は後継争いを優位にすべく上杉に助力しております。この企みが上手く行けば曹丕様は曹植様にその地位を奪われ、司馬懿様も評判は地に落ち更迭されることでしょう。そして河北の地は上杉と武田に奪われ、曹丞相の支配地域が大きく減少することとなるかと」 孔桂は表情を変えもせず、暗誦するかのように抑揚もなく話した。 「貴様!何を出鱈目を!」 「出鱈目などではござらん。事実、貴殿らに呼び出され、私と楊俊殿で上杉の本陣へ向かっております」 「我らは最初から反対していたのだ。そのような裏切り行為は出来ぬと。楊俊だ、楊俊が強く推したのだ」 皆の視線が楊俊を向く。 「ふん、やはりそなたは信用ならんな。某とて曹植様の側近。曹植様の後継のために尽くすは当然。そのため曹丞相の地盤の弱体は望まぬ。某が上杉本陣で何をしてまいったか、話してくれぬか孔桂殿」 今度は孔桂に皆の目が注がれた。 「楊俊殿は布陣図を書いておられました。しかし配置図は所々抜け落ちさせ、また曹丕様からの援軍も伝えてはおりませぬ」 「それでも布陣図を書いたのなら重大な裏切りではないか。それに孔桂めを引き入れるのはやはり失敗であったな」 丁儀の意見に丁廙が大きく肯く。それを皮切りに四者三様の言いあいが始まった。 「ええい、もう良い。そなたらは曹植の下へ戻り謹慎させておくよう申し伝えておく。軍は我が預かる。この戦が終わり次第そなたらの処遇について丞相を交えて話すと致す」 喚き散らす四人を黙らせると曹彰はそう下知して護衛をつけて曹植の所へと送り返した。
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