第二部 七章

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「失敗に終わったようだな」 謙信の低い声に定満は言い訳もせずに平伏した。同様に景家と弥太郎も頭を下げている。 曹彰軍の急襲により景家と弥太郎の軍は後退を余儀なくされ、その上楊俊らも解任されたと聞き及んでいる。 「だが、楊俊の布陣図によれば曹彰は北に陣を敷いていたはず。ならば今北は手薄になっているな」 「恐らくは」 「兵糧ももはや残り少なかろう?」 「はい。信長から融通された兵糧もあと数日分。これ以上の長滞陣は厳しいかと」 「これほど抜けぬとはな。流石は司馬懿よな」 「我らの力が足らず、申し訳ございませぬ」 「南皮に使者を送れるか?」 「警戒が厳しく迂回せねば……」 「ならば狼煙を三本上げよ。あちらにいる勝長ならば読み取ってくれよう。こちらからも総攻撃を行う。儂も陣頭に立とう」 「畏まりました」 定満が立ち上がってそそくさと出ていく。後を追うように景家と弥太郎も出ていった。 翌日。上杉本陣からほど近い丘から狼煙が上げられた。 「あれは?」 南皮城からも確認できる狼煙に、氏郷は勝長に問いかけた。 「三本の狼煙は攻撃の合図。兵糧の残り具合も考えれば総攻撃するのではあるまいか」 「それほど上杉軍も追い込まれているということか」 「でしょうな。柿崎を始め、突破力の高い将が揃っているにも関わらず、未だ司馬懿軍を抜けていないのだから」 「ならば、あれは総攻撃を仕掛けるゆえ、こちらからも攻撃を仕掛けよということですかな?」 「昨日の曹彰軍の大移動とも関係あるやも知れませんな。すぐに武田とも協議致すとしよう」
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