第二部 七章

1693/1732

31088人が本棚に入れています
本棚に追加
/2639ページ
氏郷はすぐさま武田の面々に声を掛け集めた。 「御屋形様が動くぞ」 「またか、勝長殿。これまでも何度か動くと言われ、実際に動いたのかもしれぬが……」 一条信龍が難色を示す。これまでも南側で戦闘が起こった形跡はあったが、どれも小競り合い程度に終わっていたのだ。 「今回は狼煙もある。本格的に攻め寄せよう」 信龍は腕組みして唸り声をあげ、高坂と内藤の顔を交互に見る。 「本当に動くならばこちらからも当然動くべきなのだが……」 内藤もどうも歯切れが悪い。 「なにかあるのですか?」 氏郷が問う。すると内藤も高坂と信龍と顔を見合わせて頷き合う。 「まだ未確認ではあるのだが、北や北西から異民族の大軍勢が向かってきていると言うのだ」 「それはどこからの情報でしょう?」 「北平からだ」 「信玄公から?」 「御屋形様から直接ではないが、美濃殿からゆえ信憑性は高い」 美濃殿とは武田信勝と共に信長の下から武田信玄の救援に向かった馬場信春のことである。 その馬場からの情報ならば確かに信用出来よう。 「しかし兵を分けてはどちらに対しても中途半端になってしまうぞ」 「うむ。こちらからも情報の確認に兵を出している。そやつらが戻るまでは待てんか?」 「いつ戻るのか?」 「明晩には戻る予定だ」 「それでは遅いな。我ら上杉は御屋形様のために動くぞ」 「やむを得ないであろう。すまんな。氏郷殿はいかが致す?」 「我らも勝長殿と共に参ります。明後日までに謙信公が抜けてくれば異民族共とも張り合えましょう」
/2639ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31088人が本棚に入れています
本棚に追加