第二部 七章

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「兵たちにはもう少し我慢してもらいましょう。怒りを溜め込ませておくのです」 「しかし、怒りが溜まる前に不満が爆発せぬか?」 「将軍の兵は鍛えられておりますゆえ、もうしばらくは大丈夫でしょう。その前に武田軍がしびれを切らします」 王祥に言われると、そうかも知れないという不思議な安心感を得られる。 「うむ。呂翻、王祥。皆の不満をわずかでも減らせるよう尽力してくれ」 呂虔はそう言うなり、自ら兵たちの下へ趣き、声を掛けて歩いた。 「ふん、なかなかにしぶとい」 挑発を続けるも亀のように動かない呂虔軍に昌信が苛立ちを露わにしていた。 「それだけ統率のとれた部隊なのでしょうな」 信龍は苛立つでもなく相手の力量を称える。 「先に許儀から引きずりだすか」 「そちらが手っ取り早いかも知れませんな」 まだ若く、また父が優れた将であるが故の苦しみもあろう。武田勝頼のように。 許儀が勝頼ほど優秀であるかはわからないが血気に逸れば引き摺り出すことは容易である。 「信龍、ここは任せて良いか?」 「高坂殿自ら参ると?」 「その方が呂虔とやらも動きやすかろう」 信龍とて信玄の信頼篤く、昌信と比べても遜色ない将である。 しかし昌信には張遼を討ったという戦功があり、また司馬懿率いる曹操軍からすれば重鎮の仇である。 「承知いたした。挑発は一旦止め、あやつらと睨み合いするとしましょう」 「さすがは信龍。頼んだぞ」 こちらの意図を汲み取ってくれるため非常にやりやすい。 昌信も絶大な信頼を置いてある信龍に後事を託し、許儀軍を動かすために兵を動かした。
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