第二部 七章

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「酷い目に遭ったわ」 ようやく落ち着いた先で賈訪が愚痴をこぼした。許儀はばつの悪そうな顔で押し黙っている。   「これではまた父に叱られてしまうではないか。貴殿の失態であるぞ」 賈訪は敗戦の責任を押し付けると、さっさと本陣へ退くべく軍を動かした。 だがそこへまたしても高坂軍が現れる。 「なぜこうも行く先々で奴らに遭遇するのだ」 だが敵の数は明らかに少ない。それを見て賈訪は撤退せずに応戦するよう指示を出した。 「ほう、勇敢だな」 「なに!高坂昌信がいるだと?ここで奴を討ち取れば挽回できるぞ、やれ!」 寡兵と侮り、賈訪が仕掛ける。しかし相手は歴戦の勇であり、張遼を討った男である。賈訪がとても敵う相手ではなかった。 「賈訪と言ったか、勇敢と無謀は違うぞ」 高坂軍の熾烈な攻撃に、賈訪は撤退する隙すら見つけられない。そこへ、 「賈訪殿、ここは某が引き受けた。撤退されよ」 と、許儀が割って入った。 「おお、助かったぞ。頼む!これで先の失態はなかったこととしよう」 そう言って賈訪は這々の体で逃げて行く。 「逃がす価値のある奴とも思えんが」 昌信が許儀に斬りかかる。許儀はそれを撃ち返し、 「だとしても味方、助けぬわけにはいくまい」 と、言い返す。 「仲間思いも結構だが、相手と状況を考えればここは逃げるが最善手であったな。そこがお主の甘さよ」 昌信の猛撃に許儀は押しに押され、遂には敗れて捕縛されてしまった。 「先も奴に言ったが勇敢と無謀は違うのだ」
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