第二部 七章

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「最初から性急に事を動かせば、賈詡はより堅固な陣組をしてしまう。相手の油断を突かねばならないのに、これではもう……」  氏郷は無念そうに項垂れ首を振る。 「なったものは致し方ない。承知致した」  表面を取り繕い、氏郷は気を取り直した振りを装い、使者に返答した。使者が去るとすぐに沮鵠を呼ぶ。 「高坂殿が許儀と賈訪を捕えた。朱霊を攻撃するゆえ進軍せよとのことだ」 「不満そうですな」 「うむ。私の伝え方が不味かったのか、高坂殿の゙気が変わったかはわからぬが、もはやこの戦はこれ以上大きく動かぬ」 「どうされます?」 「典満を攻めるふりをし追い払う。その後沮鵠殿には南皮に向かってもらいたい」 「それは構いませんが何故?」 「我ら連合軍の退路確保の゙ため、それと防衛のためだ」 「それほど苦境に陥りますか?」 「おそらく。私が賈詡や司馬懿なら堅く守りはするが容易に退却もさせないようその場に釘付けにする手を打つ。そしてその間に別働隊なり、北からの援軍なりに南皮を攻撃させる」 「なるほど。南皮救援にと退却すれば後ろから追い立てられますな」 「そうだ。動かねば南皮は落ち、我らは拠り所をなくす羽目になるであろう」 「一大事ですな。畏まりました」 「頼んだぞ。内藤殿も沮鵠殿がいれば心強いであろう。よく相談し後方を守ってもらいたい」 氏郷と沮鵠は話し終えるとすぐに部隊を動かし典満の部隊の攻撃に移った。 典満は氏郷隊が近づくや、槍も合わせずすぐに撤退していく。
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