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沮鵠はそれを見送ると、氏郷の言う通り部隊を南皮に向かわせた。
「許儀と賈訪が捕まっただと!」
賈詡の顔色がみるみる赤くなっていく。油断を突いて切り崩していくはずが、寧ろ片翼を切り取られてしまった格好だ。
「相当な知恵者がいるようだな。忌々しい。賈穆と典満、それに朱霊に部隊を後退させ守備に徹しろと命じよ」
策が失敗した上に逆に相手に乗っ取られたとなってはこちらが各個撃破されかねない。
賈詡はすぐに守りを固めると同時に司馬懿へ援軍の要請の使者を派遣した。
「何?朱霊が後退しているだと?」
次の攻撃目標である朱霊隊の移動は昌信も面を食らった。こちらの態勢が整う前に下がられてしまったのでは正面からの正攻法しか攻め手がない。
「氏郷から早馬だと?」
使者によれば典満や賈穆も後退したとのことであった。そして昌信の武勲を讃えつつも、行動が性急過ぎたため敵が守りを固めてしまったと遠回しで窘められた。
「やり過ぎたということか……」
氏郷の思うがままにさせるのも納得いかぬと、その上を行き鼻をあかしてやろうとしたのが裏目に出たことに、昌信は後悔し嘆いた。
個が集まり大きな塊となってしまっては簡単には切り崩せない。つまりこの戦場は、なにか特別なことでもない限り変化は起きない。
「氏郷に頭を下げよう。そしてなにか手はないか相談して参る。信龍、ここは頼んだ」
昌信は信龍に部隊を任せ、単身氏郷の所へと馬を走らせた。
「高坂殿、どうされた?」
突然の訪問に氏郷が驚く。
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