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「貴殿の策を無にしてしまった。申し訳ない」
「いえ、高坂殿には高坂殿のお考えがあったのでしょうし、私の方こそ差し出がましい事を致し申し訳ござらん」
「差し出がましいなど全くない。此度の事は我が狭量のせいである」
昌信は素直に頭を下げた。そして、
「まだなにか打てる手があれば教授して頂きたいのだが」
と、改めて尋ねた。
「今すぐ打てる手は思い浮かびません。しかし、退路確保と南皮防衛のために沮鵠殿を向かわせました。司馬懿や賈詡なら南皮を狙う手はずを整えてくるでしょうから」
「ならば我らも退いた方が良いのでは?」
「いえ。我らが南皮に退けば、曹軍はなんの労もなく包囲できますし、それに今あちら側で攻勢に出ている謙信公も見捨てる形になってしまいます」
「そうであるな。それでは色部殿も納得するまい」
「ええ、ですので相手の出方を窺い、それを読んでこちらも次の手を打つのが最善でしょう」
「承知した。色部殿にもそのように伝えておこう」
色部隊はこの戦では一度も動いていない。が、しっかりと朱霊隊を釘付けにする大役を果たしているため、氏郷にしろ昌信にしろそれなりに自由に動けているのだ。
「ではもう暫し朱霊らの動きを牽制しておこう」
直接訪れた昌信に勝長はそう告げた。
謙信が司馬懿軍を切り裂いて来ると信じて疑っていないのだろう。全く動じることなく、ひたすら自身の為すべきことを為さんとしている。
氏郷の言うように撤退すると言っても聞き入れないであろう。
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