覇王

第二部 七章

そんな中朱霊軍が位置を下げていると報告が入った。やはり賈詡は守りの態勢を取るのだろう。

「朱霊軍との距離を保て」

勝長の指示で色部隊が前進し、朱霊軍との距離は保たれたまま対峙し続け圧力を掛けていく。

「結構な前進をしたな」

昌信は色部隊が突出していることに不安を感じ、やんわりと前に出過ぎではないかと伝えたが、

「朱霊単体では攻めてこぬ。それにそなたの方の賈詡の部隊は崩壊してるのであろう。包まれる心配もないゆえ大丈夫だ」

と、意に介さない。それどころか、

「ここまで前進すれば御屋形様の動向もより分かるであろう」

と、半ば喜ばしそうでもあった。

「では我ら両翼もそれぞれ押し上げましょう」

昌信はそう告げると自軍に戻り、勝長の部隊と同じく部隊を前へと進めた。

「ふん、包囲を狭めておるな。当然ではあるが。再度手を出すなと通告致せ」

こうなることはわかっていたが、まさか我が子のせいで守勢に陥るとは、と賈詡は苛立っていた。

賈穆にしろ賈訪にしろ、学問上での戦術や戦略の理解度は高く、実戦経験がないため此度の戦で
積ませようと目論んでいたのだ。

だが長年の戦場経験を重ねてきた賈詡からすれば、どうも経験を積んでも実戦では役に立たなそうである。実際ここまで後退させられているのだ。

ただ司馬懿からは、少ないが援軍を送ると返答があったのが救いである。

誰がどの規模で来るのか次第ではあるが、策を練りなおして連合軍を追い返してやろう、と賈詡は意気込んでいた。