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曹操はそんな韓嵩など目にも留めず、遠くを見つめて呟いた。
「もう一つ、喜ばしいことがあったな」
曹操は笑いがこみ上げ、口からこぼれ出た。
「誰かおるか、荊州陥落を信長に伝えてやれ。奴の悔しがる顔が目に浮かぶわ」
曹操の高笑いは幕舎から漏れるほどで、通りかかった諸将も足を停めた。
「あれほど簡単に、思うように事が運ぶものか」
信長は呆気に取られていた。
まるで筋書きの決まった能でも見ているかのようである。
「将兵の動きや心理をよく読み取らねば難しいでしょうな」
名軍師として名高い半兵衛ですら、魂を抜かれた人形のようで、信長が声を発さなければいつまでも呆けて突っ立っていたであろう。
「おぬしでも難しいか?」
「あれほど鮮やかにはいきますまい」
半兵衛は素直に諸葛亮の手腕を讃えたが、内心では負けてなるものかと気炎を上げていた。
「この様子では曹操の苦戦は免れまい。戻って戦略を練るとしようか」
信長はにんまりと微笑み、帰陣を促した。
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