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「おのれ、私に武の才があれば……」
文官は周囲を窺いながらじりじりと後退する。
曹軍の兵が興奮して今にも飛びかかろうかとしたその時、信長の命を受けた蘭丸が割って入った。
兵の殺意が蘭丸に向く。
「貴様も劉備の将か!」
「否。私は森蘭丸。織田信長が側近だ」
「なぜ邪魔をする!」
「将校ならば殺さず生け捕っておけば何かしら使い道はあろう。この者の身柄は織田信長が預かる。文句あらばお相手しよう」
兵たちの殺気を押し返すほどの殺気を蘭丸が放つ。
端正な顔立ちからは想像もつかないほどの冷たい殺気に曹軍兵はたじろぎ、武器を納めて去っていった。
蘭丸もふぅと、ひと息つくと刀を鞘に納めて振り返った。
「なぜ私を助けた?」
織田信長と言えば曹操の一番の盟友である。
つまりは敵であるはずだが、先ほど見せた殺気は一切感じられず、特に手荒な扱いをするでもないことを不思議に思った。
「詳しいことは信長様にお聞きくだされ」
蘭丸はそう言うと文官の手を取り、信長の下へと伴った。
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