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信長は文官を威圧するでもなく、柔和な表情で出迎えた。
「貴公の名を伺いたい」
声の質もいつも以上に柔らかく優しい。
「糜竺と申す」
文官は糜竺と名乗った。
捕虜ではあるが、信長や蘭丸の丁重な扱いにわずかながら心を開く。
「糜竺殿か。気を張らず楽になさるが良い」
「なぜそこまで厚遇される?」
糜竺は捕虜らしい扱いをされるものと決めこんでいたが、それに反し拘束するわけでも拷問するでもなく、むしろ友好的な信長の態度に疑問を抱いた。
「糜竺殿、儂は劉備の滅亡を願ってはおらんのだ」
信長がゆっくりはっきりと話しだし、糜竺に体を近づけるように上体をぐいっと前方に傾けた。
「貴公を保護したのは劉備と連絡を取り、なんとか逃げのびてもらうためだ」
信長の言葉が理解できていないかのように、糜竺が不思議そうな顔で信長を見つめる。
「まあ良い。今は体を休めゆるりと過ごされよ」
信長は微笑み、糜竺をねぎらうよう兵に告げた。
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