第二部 七章

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信長は文官を威圧するでもなく、柔和な表情で出迎えた。 「貴公の名を伺いたい」 声の質もいつも以上に柔らかく優しい。 「糜竺と申す」 文官は糜竺と名乗った。 捕虜ではあるが、信長や蘭丸の丁重な扱いにわずかながら心を開く。 「糜竺殿か。気を張らず楽になさるが良い」 「なぜそこまで厚遇される?」 糜竺は捕虜らしい扱いをされるものと決めこんでいたが、それに反し拘束するわけでも拷問するでもなく、むしろ友好的な信長の態度に疑問を抱いた。 「糜竺殿、儂は劉備の滅亡を願ってはおらんのだ」 信長がゆっくりはっきりと話しだし、糜竺に体を近づけるように上体をぐいっと前方に傾けた。 「貴公を保護したのは劉備と連絡を取り、なんとか逃げのびてもらうためだ」 信長の言葉が理解できていないかのように、糜竺が不思議そうな顔で信長を見つめる。 「まあ良い。今は体を休めゆるりと過ごされよ」 信長は微笑み、糜竺をねぎらうよう兵に告げた。
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