第二部 七章

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徐庶はこれはまずい、と小屋へ戻るべく静かに後退して行く。 だが、わずかな木々の揺れや小動物の動きを若武者は見逃さなかった。 「何かおるぞ。あの辺りを取り囲め」 若武者は剣を向け、場所を指示を出す。 その剣は一介の将が使うような武骨な剣ではなく、鞘や柄に絢爛豪華な装飾が施されている。 囲まれた徐庶は、観念してせめて小屋から引き離そうと画策した。 「私は劉玄徳様が家臣徐元直。曹操殿にお伝えしたい議があるゆえ、案内を頼みたい」 しかし、この若武者の洞察力は鋭く徐庶の誘いには乗らない。 それどころか徐庶の名を知ると、探していたことを告げ、程イク殿から文を預かっておるぞ、と懐から出し手渡す。 徐庶は文を読み愕然とした。 文は母からで、曹操に庇護されており不自由ない暮らしをしているのに、劉備に従い曹操に弓引くとは何事か、といった内容が書かれていた。 字体も母のものであり、疑うこともしない。 徐庶の動揺は若武者にも伝わるほどだったが、大きく呼吸をし、乱れた精神を整えた。
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