31144人が本棚に入れています
本棚に追加
徐庶はこれはまずい、と小屋へ戻るべく静かに後退して行く。
だが、わずかな木々の揺れや小動物の動きを若武者は見逃さなかった。
「何かおるぞ。あの辺りを取り囲め」
若武者は剣を向け、場所を指示を出す。
その剣は一介の将が使うような武骨な剣ではなく、鞘や柄に絢爛豪華な装飾が施されている。
囲まれた徐庶は、観念してせめて小屋から引き離そうと画策した。
「私は劉玄徳様が家臣徐元直。曹操殿にお伝えしたい議があるゆえ、案内を頼みたい」
しかし、この若武者の洞察力は鋭く徐庶の誘いには乗らない。
それどころか徐庶の名を知ると、探していたことを告げ、程イク殿から文を預かっておるぞ、と懐から出し手渡す。
徐庶は文を読み愕然とした。
文は母からで、曹操に庇護されており不自由ない暮らしをしているのに、劉備に従い曹操に弓引くとは何事か、といった内容が書かれていた。
字体も母のものであり、疑うこともしない。
徐庶の動揺は若武者にも伝わるほどだったが、大きく呼吸をし、乱れた精神を整えた。
最初のコメントを投稿しよう!