第二部 七章

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その巨体が倒れたことにより、僅かながら地響きを上げた。 趙雲は地響きに気を取られ、凶気を纏った矢に気づかなかった。 倒れた晏明の体躯の影から淳于導の放った数本の矢が飛び出し、趙雲を襲う。 寸前趙雲は気づき、何本かの矢を叩き落としたが、一本だけは対処しきれず左上腕を掠めた。 趙雲は矢の放たれた先を睨みつける。 「私は淳于導、曹丞相の側近です……ん?その手に持つは青コウの剣ではないですか。ふん、夏侯恩め」 曹操の側近らしく淳于導は容姿端麗な若者であった。 その表情には悲哀感などなく、むしろ喜んでいるように見受けられる。 さらに高貴さを打ち消す卑しい笑みを浮かべて、趙雲の左腕の傷を舐めるように見つめた。 「数打てば当たるものですな。私の矢には徐々に体が痺れる毒が塗ってありましてね」 淳于導はくくく、と声をこぼしている。 「身内の死を喜び、姑息な手段で敵を襲う。下衆の見本のような男だな。このような者を側近にしているのだから曹操もたかが知れている」
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