第二部 七章

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張飛の全身からは前にも増して気迫がほとばしる。 「あとは任せておけい」 と、振り返ることなく趙雲に告げた。 張飛の見つめる先には姿こそまだ見えないが、今にも怒涛のように押し寄せそうな曹軍の気配が揺らめいてくた。 「趙雲殿が戻られました!」 執拗な曹軍の手を逃れ、ひと息ついていた劉備に朗報が届く。 劉備はすくっと立ち上がり趙雲を出迎えた。 「殿……」 劉備の傍を離れてから数時間しか経っていないのに、もう数ヶ月も会っていない気がした。 劉備の無事を確認でき、また会えたことに趙雲は大粒の涙を皆の前はばかることなくこぼす。 そして胸あての中から珠玉のような寝顔の阿斗をそっと抱え上げ、劉備に手渡した。 「阿斗!」 劉備の顔が父親のものとなり目尻と頬が緩む、趙雲は劉備の前に跪きながらそんな光景を想像していた。 だが草むらにどさっという落下音とともに激しい赤子の泣き声が響き、趙雲はばっと顔を上げた。
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