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そこに見えたのは趙雲の想像通りの優しく慈しむ表情の劉備であったが、その顔は趙雲に向けられていた。
かと思うと、劉備は趙雲に覆いかぶさるように抱きつき、
「よくぞ……よくぞ戻って参った」
と、涙に声を詰まらせる。
趙雲は声を発しようとしたが言葉にならずむせび泣く。
「趙雲、阿斗のこと礼を言う」
劉備が深く呼吸する。
「だが、我が子のためにおぬしのような優れた将を失うところであった……すまぬ」
ついに劉備もむせび泣きをしだす。
趙雲は劉備の最大限の謝礼讃辞に深く感じ入り、劉備のためならば自分の命など惜しくもないと、より一層の忠誠を誓った。
「奥方様は信頼できる方に委ねております。必ずや無事送り届けていただけましょう」
やや落ち着いた趙雲は糜夫人のことを劉備に伝えた。
「そうか、糜も生きておるか。おぬしが信頼できるというならば問題あるまい」
劉備はなんの疑問も挟まずに趙雲の言葉を信じ、安堵の表情を浮かべる。
だが遂に二人の娘の消息は知れなかった。
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