第二部 七章

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張飛は先ほどのような気迫など微塵も見せず、おどけた表情で、 「じゃあな」 と叫び、長坂橋を切り落とし颯爽と去っていった。 「詰めが甘いな、張飛という男は。すぐに橋を掛けよ。劉備に伏兵などなく策もない」 曹操がにやりと笑みを浮かべる。 張飛の行動から劉備軍の現状を看破したのだ。 「橋を残しておけば我らは惑い、追撃に移れなかったであろうに」 曹操は全軍に、落ちた橋の修復を急がせた。 そして辺りをきょろきょろと見回す。 「そう言えば信長が見当たらないが?」 と、曹操は不審げに尋ねた。 「通行できる場所がないか探す、と兵を連れて行きましたが」 曹操は苦虫を噛んだような顔を見せる。 「すぐに信長を探せ。見つけたら儂の下へ呼べ」 深い理由はないが長坂橋にいなかった信長に違和感を覚えた曹操が、取り乱すように荒れた声を部下に向けた。 部下はそんな曹操が癇癪を起こす前に立ち去り、信長捜索に足早に動いた。
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