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「だっせぇ…──。」
小声で自分に悪態をついた。
「次は、西凌寺────お出口は右側です────。」
電車の案内に我に返った。
何を言ったって、全てが戻るわけじゃない。
いつの間にか車両には独りきりだ。
「ご乗車ありがとうございます。西凌寺、西凌寺に到着です。」
機械のアナウンスではなく、車掌の声がマイクを通して裕弥しかいない車両に響き渡る。
ゆっくりと速度が落ち、体が傾く。
電車はホームに滑り込むと、わずかな振動を残して止まった。
隣に投げ出された鞄を肩に担ぎ、裕弥は降りる。
誰も降りた人はいなく、ホームは昼だというのに物寂しかった。
係の人もどこかに行ったのか、それとも事務所で眠りこけているのか、無人の自動改札を出る。
「ふぅ…。」
街は古びた家が立ち並び、改札を出て正面の通りを行けば、永遠に続くと思われる石段がそびえる。
西凌寺はその上に静かに街を見下ろし鎮座していた。
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