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「わかってるけどさぁ! それでも怖いのっ!」
「ダサ」
「ムキ──ッ、うるせいやい! レモンくれレモン~~っ」
手足をバタバタ振り回す佑季に、ゆまは軽くないため息を吐き、
「ああ、はいはい」
と立ち上がった。
「やった。ゆま大好きぃ~~」
速攻でニコニコと笑顔になった単純佑季は、スルリとゆまの顔に顔を近付けてすりすりと頬擦りをする。
「うっとーしー……」
ゆまはそれを首をそらして拒む。
けれど触れていなくても、彼女の右頬にはひんやりとした電気が走り、なんとも言えない感覚が芽生えた。
佑季はゆまに触れることができない。
それどころか、彼女と肩を並べて“歩く”こともできはしないのだ。
佑季の足は、空をつかんで地面をつかめない。
いつもふよふよと浮かんでいる。
歩くことなんてしなくてよいのだ。
そして彼は、それを大層残念に思っている。
何事も失って気づくものだが、“普通に歩ける”ということも、ご多分に漏れずそうなのだ。
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