第一章:『お先真っ暗』

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「貴博様、もう少しで着きますじゃ」 「分かった」 話し掛けたのは初老の執事。 紳士的な外見だったが、何度か見た事がある気がする。 もみ上げとヒゲが一体化していて、眼鏡をかけていて…… 「本木先生!?」 「違う。彼は担任の茂吉の父親の八兵衛だ」 「名前古っ!」 「ちなみに名字は“茂木沢”ですじゃ。息子が世話になってますな」 「うわ、妥当な喋り方」 無意識に突っ込みを入れてしまう佐藤賢一。 一年後にはボケ側になっているのを知らずに…… 「で、着くってどこに?」 「港だ」 「何しに?」 「アメリカのマフィアとドンパチを起こす」 「…………」 訊くのをやめた。今疑えば真実だった場合後から後悔するからだ。 「あなた様の部屋も用意しておりますじゃ」 「は?俺捕虜なんじゃねーの」 「捕虜の意味を知らないのか?《敵に捕らえられた人》だ。貴様が佐々木組の組員だとは考えられん。もし只の一般人だとしたら捕虜では無くなるからな。」 どうやら埋められたりしない様だ。家に帰れそうだよママ。 「────って訳で安心しろ、葬式はあげてやる」 「え?やっぱ死ぬの?」 「うん、98%」 「残りの2%は?」 「君が無謀にも信じて裏切られる崖っぷち」 いかにも(笑)が付きそうな台詞を無表情で言ってのける丹野貴博。 佐藤賢一は溜め息をついて、絶望したのだった。
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