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「貴博様、もう少しで着きますじゃ」
「分かった」
話し掛けたのは初老の執事。
紳士的な外見だったが、何度か見た事がある気がする。
もみ上げとヒゲが一体化していて、眼鏡をかけていて……
「本木先生!?」
「違う。彼は担任の茂吉の父親の八兵衛だ」
「名前古っ!」
「ちなみに名字は“茂木沢”ですじゃ。息子が世話になってますな」
「うわ、妥当な喋り方」
無意識に突っ込みを入れてしまう佐藤賢一。
一年後にはボケ側になっているのを知らずに……
「で、着くってどこに?」
「港だ」
「何しに?」
「アメリカのマフィアとドンパチを起こす」
「…………」
訊くのをやめた。今疑えば真実だった場合後から後悔するからだ。
「あなた様の部屋も用意しておりますじゃ」
「は?俺捕虜なんじゃねーの」
「捕虜の意味を知らないのか?《敵に捕らえられた人》だ。貴様が佐々木組の組員だとは考えられん。もし只の一般人だとしたら捕虜では無くなるからな。」
どうやら埋められたりしない様だ。家に帰れそうだよママ。
「────って訳で安心しろ、葬式はあげてやる」
「え?やっぱ死ぬの?」
「うん、98%」
「残りの2%は?」
「君が無謀にも信じて裏切られる崖っぷち」
いかにも(笑)が付きそうな台詞を無表情で言ってのける丹野貴博。
佐藤賢一は溜め息をついて、絶望したのだった。
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