1人が本棚に入れています
本棚に追加
/50ページ
「………ということで、君は佐々木組の組員では無いと証明された」
「どういうこと?」
「“大人の事情”だ」
「ふ…ふぅぅぅん。随分便利な言葉だね、大人の事情って」
そうだな、っと部屋を出て行く丹野貴博。
ここは港の近くにあるホテルの一室。
上記の通りに佐藤賢一は佐々木組とは無関係、ただの運の悪い学生だった事が証明された。
「にしてもこれ、こんなの持っといていいのかよ……」
丹野貴博から渡されたのは、“護身用”のロシア製トカレフ。
物騒な世の中だ、と世間に皮肉を言いながらベッドに寝っ転がった。
ピロリピロリピロリピロリピロリピロリ菌
最後の方に胃の中に生息する螺旋状の細菌、ヘリコバクター・ピロリの俗名が聞こえた気がしたが、取りあえず無視する。
それは室内の電話だった。
「はい、佐藤ですけど」
『俺だ』
「オレオレ詐欺って今“振り込め詐欺”って名前なんだよ。知ってた?」
『知ってる』
「そっか、じゃあね」
『うん、また………じゃなくて俺だ!丹野貴博だよ』
「あぁ、先に言ってよ。危ない人かと……いや、間違ってなかったね」
『はい?』
「ううん、君も危ないから気にしないで。で、何?」
『無視して言う、疲れてる所すまないが今からロビーに来て欲しい。トカレフも持ってな』
「分かりたく無いけど分かった」
『じゃ』
ガシャンと電話は切られた。トカレフを腰に挿し見えない様にYシャツで隠す。
部屋の電気を消すと、溜め息を付きながら仕方無くロビーへと向かった。
最初のコメントを投稿しよう!