第二章:『大人の事情』

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「………ということで、君は佐々木組の組員では無いと証明された」 「どういうこと?」 「“大人の事情”だ」 「ふ…ふぅぅぅん。随分便利な言葉だね、大人の事情って」 そうだな、っと部屋を出て行く丹野貴博。 ここは港の近くにあるホテルの一室。 上記の通りに佐藤賢一は佐々木組とは無関係、ただの運の悪い学生だった事が証明された。 「にしてもこれ、こんなの持っといていいのかよ……」 丹野貴博から渡されたのは、“護身用”のロシア製トカレフ。 物騒な世の中だ、と世間に皮肉を言いながらベッドに寝っ転がった。 ピロリピロリピロリピロリピロリピロリ菌 最後の方に胃の中に生息する螺旋状の細菌、ヘリコバクター・ピロリの俗名が聞こえた気がしたが、取りあえず無視する。 それは室内の電話だった。 「はい、佐藤ですけど」 『俺だ』 「オレオレ詐欺って今“振り込め詐欺”って名前なんだよ。知ってた?」 『知ってる』 「そっか、じゃあね」 『うん、また………じゃなくて俺だ!丹野貴博だよ』 「あぁ、先に言ってよ。危ない人かと……いや、間違ってなかったね」 『はい?』 「ううん、君も危ないから気にしないで。で、何?」 『無視して言う、疲れてる所すまないが今からロビーに来て欲しい。トカレフも持ってな』 「分かりたく無いけど分かった」 『じゃ』 ガシャンと電話は切られた。トカレフを腰に挿し見えない様にYシャツで隠す。 部屋の電気を消すと、溜め息を付きながら仕方無くロビーへと向かった。
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