夏越しの祓え

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夏は、雨の匂ひを孕んで、夜を迎へ入れた。 艮(うしとら)の方角に、暗雲がどつしりと構えてをり、其處(そこ)から雨氣は、運ばれてくる。 濕(しめ)つた空氣を、熱氣と冷氣とが、二層に分けてゐる。脚を、氣持ちの惡い冷氣が搦め取り、腕に、蒸し暑い熱氣が纏(まと)はりつく。 襯衣(シャツ)の丸襟で、首筋の汗を拭ふが、既に、冷たい汗で水浸しの布では、あまり效果は期待出來なかつた。 夜が、大氣を冷やしてくれる亊を望むのだが、大地は未だ、晝(ひる)の與(あた)へた熱を抱き抱へてゐる。 そして更に、それを覆うやうにして、夕立の前兆は垂れ込めてゐるのだ。 先刻まで僅か朱を殘してゐた空も、今は何處かへ行つてしまつた。ただ遠くに狐火が搖らめひて、その周りを、虚無らしき闇が包んでゐるのみ。
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