プロローグ

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   夜も11時を過ぎた頃。    西條明日香<サイジョウアスカ>は暗い夜道を一人で歩いていた。鼻歌を歌いながら、今にもスキップしそうな勢いである。    その様子は、はたから見れば不審者だが、彼女は至って普通の人間。普通の中学3年生。…普通の女の子。    背中まである艶やかな黒髪は彼女が歩く度に揺れ、白い肌は少々不健康に見える。時折、街灯に照らしだされる彼女の顔は、笑顔に溢れていた。    そんな上機嫌な明日香の横を一台のベンツが通り過ぎた。   闇に溶け込むような黒いボディ。細長く気品溢れるシルエット。    そいつが通り過ぎる瞬間、明日香は思わずぎょっとした。一瞬、パトカーだと思ったのである。   例え不審者でなくとも、こんな夜遅くに中学生が歩いていたら、補導されるに決まっている。    しかし、それがパトカーでないと気付くと、彼女は安堵し再び帰路についた。   暫く歩くと、ベンツの事など明日香の頭の中からすっかり無くなっていた。    …数分後。    明日香の前方に周りの家々よりもずいぶん大きなマンションが見えてきた。   この小さな街で一番大きなそのマンションが、今の明日香の自宅である。
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