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「それに応えたとして、どうなる?」
自嘲的な笑みを漏らして、紅翡は金色(こんじき)の瞳を男へ向けた。
「お前が、朱鴇(あかとき)なのか? 俺達を騙していたのか?」
「そうだと言ったら、それを鵜呑みにするのか?」
冷ややかな視線を黒髪の男に向けると、紅翡は胸ぐらを掴む男の手を振り払って突き飛ばす。
男は体勢を崩し尻餅をついたが、すぐに立ち上がった。
ざわめく木々の声が、警告を発している。
「俺はそれを肯定と取るぞ」
男の周囲に何処からか発生した水が渦巻いてうねっていた。その水は蛇のように鎌首をもたげ、正面に立つ紅翡に狙いを定める。
「このまま、死ぬわけにはいかない。約束を果たすためには……な」
紅翡は笑みを浮かべると、右手を男へと向けた。その右腕を渦巻くように炎が発生し、二羽の鳥の様相を取る。紅炎の翼をはためかせると、二羽の鳥は甲高く鳴いた。
「火の鳥……やはりお前が朱鴇なのか」
断定にも似た声は嘆きを湛え、男は拳を強く握り締める。
しかし、すぐに憎悪に満ちた表情で紅翡を睨み付けた。男が纏う水の触手が紅翡に襲いかかる。
紅翡は笑みを漏らして、溜め息をついた。彼の視線の先にあるのは横たわる女性。悔しげに下唇を噛むと、男を見据える。
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