953人が本棚に入れています
本棚に追加
香市がまた教師に近づく。
「…ゃ、やめてっ、こうちゃん!!」
ふ、と香市の動きがとまった。ゆっくりと奏枝を振り返り、優しい笑顔になる。
「奏枝……大丈夫か?」
「こうちゃん~っ」
質問には答えずに、奏枝は泣きながら香市にすがりついた。
「よしよし。立てるか?」
奏枝は涙でぐしゃぐしゃの顔を横にふる。まだ体が震えていて力が入りそうになかった。
「じゃあ、だっこするぞ。…よっと」
いわゆるお姫さまだっこをして部室を出るが、一人残された教師は何も言わなかった。
「ふぇっ、おにっおにいちゃっ…は、なんっで、がっこに、いんのっ?」
奏枝は、香市のことをおにいちゃんとも呼ぶ。香市からの希望もあって、最近はこうちゃんに統一されつつあるがよく昔のくせが出るのだ。
「奏枝を迎えにきたの」
どうやら、迎えに来たものの、姿も見えない、電話もつながらない奏枝を探して部室の方まで来てくれたようだ。
「くるまっ?」
「そうだよ。はい、着いた」
最初のコメントを投稿しよう!