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呆けた頭が捕らえたのは、ずっと聞こえているどこかで聴いたことがある唄だった。よく聴いてみると、僕の唄と同じメロディーだった。一瞬、やはり僕の箱がどこかで鳴っているのかと想ったけれど、すぐに僕の旋律とは違うことに気づいて否定した。音域が違った。 これは、主の唄だった。 僕は唄の聞こえるほうへ駆け出していた。主なら何かを知っているかもしれないと思った。 薄い霧の中を走りぬけた、その先に人影が見えた。 主……! 主が、いた。大人の男性と女性の間に座っている。きっと、あの人たちはご両親なのだろう。 僕は主の父親を見つめた。主とはあまり似ていなかったけれど、優しい微笑を見るとなんだか納得できた。 近寄ろうとは思わなかった。ここがどこなのか、わかったからだ。 これは、主の記憶の中だった。
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