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ポツ
窓に雨があたった。いよいよ降り始めるか。
雨はすぐに勢いを増し、海が落ちてきたような、そんな土砂降りの雨だった。
そう思うと、ぞっとした。もしかしたらあの雨が降ることで、海というものが生まれるんじゃないだろうか。
潮の匂いはしなくとも、もしかしたらあの雨に触れると僕は死んでしまうんじゃないだろうか。
僕の旋律しかなかった部屋に、凄まじい雨音が支配する。
主のため息が聞こえた気がした。周りの音を意識から切り離して、主の声に集中する。 「……朝、電話があったんだ」
「……ご両親からですか?」
「ああ、母さまだった……昨夜、父さまが亡くなられた」
「!」
思わず息を飲む。僕は一度もお会いした事もなかったけれど、主はとても優しい方なのだと、いつも言っていた。
あんなに主に慕われていた方が……。
泣き声ともわからない声で、主は続けた。
「父さまは癌だった。僕はずっと前から、患っていたことは知っていた」
雨の音が更に勢いを増す。
掻き消えそうな声を、聞き逃さないように僕は集中した。
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