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「オシャカになっちまったな」
「はい?」
唐突にふられ、僕は、咄嗟にアルマーニを見やった。
「リペア効かんぞ、ああなると」
「あ。ああ、アレ」
「ゲーセンの景品じゃなかろうに……キツい真似をしたもんだ」
そう言われ、僕は漸く合点がいった。どうやらこの親父、僕がアクアリウムで“殺した”携帯の、いや。それも含めて、あの一連の行動に、なにか言いたいものがあって、追って来たらしい……。
「構わない。古くなってたし、機種変するつもりだったから」
「ついでに恋にもサヨウナラ」
「え……」
返ってきた一言に、思わず、二度見した途端。
そいつと目線が合い。
どうしてだか。僕は、言葉を飲み込んでしまった。
軽く小首を傾げたその顔が、そうなんだろう?…と問い掛けているようで。
(なんて不躾な親父なんだ、こいつは)
仮に図星だとしても、他人に詮索される筋合はないし、それこそ失礼な話だというのに。
本当に、可笑しなことだけれど。答える必要なんかない筈だのに。
僕は。そのとき、自分でも驚くほど正直に答えを口にしていた。
「……恋ってもんじゃない。ただのセフレ。踏ん切りがつかなかった。それだけです」
そう。それだけだ。ONLY-ONEじゃないことは初めから承知してた。
それでいて尚、離れることが出来ずに、独り揺れていただけだ。
……恋して悩んでたんじゃない。そんな上等なもの、どこにも無かった。
情愛なんて欠片もない、身体だけの関係の淋しさに気付いて自嘲してる自分に、酔ってただけなんだから。
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