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「なにがあったか知らんが、出てやンなよ」
取り出した煙草で携帯を指し、男が苦笑した。
それには応えず、僕は真横に目をやった。
カウンターの傍らに、45cmサイズのアクアリウムの水槽が置かれてい。
僕は携帯を取上げると、静かにナナが揺れているその中にそいつを落とし込んだ。
ぶくぶくと泡を纏いながら、くらりゆらりと底砂に着地した携帯は、緑色に揺らめく水の中でくぐもった声でジュピターを歌い続け。
けれど。
そいつは最後のフレーズを歌い切ることなく、唐突にぷつりと黙り込んだ。
火のついていない煙草を咥え、呆気にとられて僕を見やる男に、
「五月蠅くしてすいませんでしたね」
言って。僕はスツールから立ち上がり、軽く会釈を返して店を出た。
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