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朝なのはわかっていた。
夢を見てるのもわかっていた。
ただ、自分の意志ではそれを、解き放て無かった。
『……………』
両手に付いた赤黒い液体を、あたりに転がる骸を、ただ見つめることしかできない。
たまらなく臭く、吐き気のこみ上げる鉄のような匂い。
…はやく、目覚めてくれ。
「………………ゃん?……ぃちゃん?」
無音のこの地獄のような世界に、どこからか声が聞こえた。
ココとは違う場所から。
ココとは違う空間から。
「…すぅ…………!!」
大きく息を吸い込む音が聞こえた、そして…
「おにぃちゃぁぁぁん!朝だよぉ!!」
とてつもなく大きな声が、俺のいた空間を引き裂き、あるべき場所へ引き戻してくれた。
「……ん、あぁ。おはよ…」
悪夢から覚めた俺は、上半身だけベッドの上で起こし、階段を下りていく妹の後ろ姿を眺めていた。
「……また、内容覚えてないか」
いつもそうだ。
あれだけ嫌な思いをしていたはずの悪夢の内容を全く覚えてないのだ。
思い出そうにも、何も記憶していない。
「……下りるか。うだうだしてたら、またルミに怒鳴られる」
服を着替え、おいしそうな匂いのする下の階へ下りていった。
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